■世界の人口1/4はイスラム教徒
世界の約19億人はイスラム教徒。そして、その約70%は東南アジアや東アジアに住んでいる。ASEANでいえばインドネシアやマレーシアがイスラム教徒の多い国家で、たとえばインドネシアの場合、人口2億5千万人の約90%近くがイスラム教徒である。
イスラム教徒のことをムスリムと呼ぶが、ムスリム(女性はムスリマと呼ぶが、本稿ではムスリムとする)とは神に帰依する者を意味する言葉。日本には八百万の神々がいるが、イスラム教はユダヤ教やキリスト教と同じ厳格な一神教。そしてイスラム教徒は世界的に急増しており、2030年には22億人の規模に達すると見込まれている。
一般にイスラム教といえば戒律の厳しさがイメージされる。もちろん一日5回の礼拝や食事や断食(ラマダーン)を守るなど、妥協を許さない信仰があることは事実である。
しかし国や地域により同じイスラム教でもその厳格さにも違いがある。たとえば中東のイランやサウジアラビアなどではイスラム教は国教であり、数々の戒律を定めたイスラム法(シャリア)が機能している。1日に数度定められた祈りの時刻にはモスクからコーランの詠唱が流れ、女性の服装やラマダーン(断食)という食事に関する規定や偶像崇拝の禁止などが厳しく施行されている。また国によっては罪科に対する石打ちなどの過酷な刑が今も行われる、独自のイスラム社会が維持されているのである。
それに比べると、マレーシアやインドネシアではそれほど厳格ではなく、個人の解釈や自由意思に任される部分が多くなっている。服装の自由度も高く、女性の自動車免許取得や社会進出なども普通に見られる。中東では禁止された「ポケモンGO」もマレーシアやインドネシアでは流行っていた。ただ例外として、インドネシアのパンダアチェ(アチェ州)は東南アジアでイスラム法を施行する唯一の地域であり、2016年には未婚男女13名にムチ打ちの刑が行われた。
■ハラール認証について
近年、海外から日本を訪れる旅行者が急増、昨年(2017年)の外国人旅行者は9月の時点で2,000万人を突破した。そして海外からの旅行者にはムスリムの方も多くなっている。そんなムスリムの旅行中の心配は食事や礼拝場所などに対する日本側の対応。
昨年、東京で開催された「ハラールエキスポジャパン2017」では産官学が協賛して、これらの項目を含めたインバウンド対策が協議された。ハラールとは、イスラム法で「許されたもの」を意味する言葉。食事に関しては、正しい手順で処理された安全な製品であることが必要だ。また物流等についても細かな規定があるという。食品以外にも肌に触れる化粧品や医薬品なども対象となるハラールビジネスの世界的な市場規模は約300兆円とも言われるが、その安全性を保証するのが「ハラール認証」なのである。
「ハラール認証」の審査機関は日本にもあるが、訪日観光客の急増により、全国の主要都市や観光地ではいち早く「ハラール認証」を取得する飲食店が多くなってきた。
マレーシアやインドネシアのスーパーで販売される製品には、安全を証明する「ハラール認証」のマークが添付されている。イスラム圏への輸出には欠かせない条件になるため、日本の大手食品・化粧品・医薬品メーカーなどでは、すでに認証済みの企業が多く、最近では中小企業のハラール認証取得も増えてきた。また、その業種も食品だけでなく添加物、化粧品、医薬品メーカーなど多岐にわたっている。
■ハラール認証はマレーシアが有利
国民の9割以上がムスリムのインドネシアでは、ハラール認証を取得していない企業との取引を禁止する慣例が見られる。安全な原材料、製造工程、品質などを審査するハラール認証の取得がイスラム市場参入の必修条件なのだ。
ハラール認証は、基本的に製造プラントがある国で認証を受ける必要がある。例えば、日本の製品を輸出する場合には日本のハラール認証団体による審査が必要である。
このように各国にはハラール認証の審査機関が存在する。ところがその認証基準は各国の審査機関によっても違いがあり、統一感が弱い状態なのだという。
そこでイスラム諸国会議機構(OIC)では、ハラール認証の国際水準に向けた策定準備を進めているのだが、現在はまだ各国の認証機関が各々独自の基準を設けて実施している状況にあるようだ。
その中でも世界で唯一、国家機関によるハラール認証を行っているのがマレーシア。マレーシアのハラール産業開発公社(HDC)による審査はサウジアラビアに次いで厳しく、そのため制度に対する信頼性がきわめて高い。
マレーシアのハラール認証を取得していると世界のイスラム諸国への輸出もスムーズなのだという。マレーシアはハラールビジネスのハブともいえる場所。マレーシア貿易開発公社が開くハラール見本市には世界からメーカーやバイヤーが集まってくる。今後の大きな成長が期待できるイスラム市場、アジアにおいても新しいビジネス展開が進んでいる。
(株式会社テクノ経営総合研究所 現地レポート)
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