コンサルティング実績

BeltonTotoku Philippines,Inc.における全員参加のものづくり改革

 アクチュエーターアセンブリで世界シェア40%を占有――香港に本社を置くベルトングループは、IT・医 療・自動車・家電産業など、幅広い分野で使われる精密部品の受託製造を展開する国際企業である。
 合同会社ベルトン・トウトク・テクノロジーは、ベルトングループ(Belton Storage Solution Limited)と 東京特殊電線株式会社により2012年、新潟県柏崎市に設立された企業。東京特殊電線株式会社のハードディ スクドライブ用コイル加工事業を引き継ぎ、製品開発・設計・試作事業を展開、ベルトングループの日本拠点 として国内企業との橋渡しをしながら、海外連携でものづくりを進めている。  アクチュエーターブロックの生産は、海外にある7つのグループ企業(中国4、タイ2、フィリピン1)が担当。 そのなかで現在、企業改革と取り組んでいるのがBeltonTotoku Philippines,Inc.(以下、BTP)である。
近年、日系企業の進出も増えてきた成長地域であるフィリピン。BTPの全従業員で進める企業改革について取材した。

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合同会社ベルトン・トウトク・テクノロジー(代表職務執行者 BTP社長 後藤 成明氏)

全員参加のものづくり改革
はじめにフィリピン工場の状況についてお伺いします。
  後藤:現在、改革に取り組んでいるBTPは、かつての東京特殊電線株式会社フィリピン工場で、私自身も工 場長として赴任していた時期があります。工場の従業員数は約1400名、女性が大半を占めており、業務的にも女性の方に働いてもら いやすい職場です。
 工場は24時間操業の昼夜交代制ですが、フィリピンに限らず東南アジアでは女性がよく働きます。ただ、スーパーバイザーなどの マネジメントクラスは圧倒的に男性が多く、女性登用も試みたことがありますが家庭を持っている等の事情で長続きする人は少ないようです。
 フィリピン国内では、近年になって外資系企業の工場が急増してきました。以前、中国がものづくり拠点として注目された頃には、 フィリピンから中国への移転が増えた時期もありましたが、そんな企業も中国のリスクを考えてフィリピンに戻るケースが最近見られ ます。昨年(2013年)のフィリピンはASEAN諸国で最も高い経済成長を遂げ、新しくフィリピンに進出する日本企業も目立つ ようになりました。我々が工場を置く工業団地もほとんど満杯になり、物流面における道路事情も10年前と比べてかなり改善されてきました。
コンサルティングを導入された経緯をお伺いします。
  後藤:BTPでは、東京特殊電線株式会社の時代にトヨタ生産方式を導入したことがあります。ご指導いただ いたコンサルタントは東京特殊電線株式会社を退職されたOBの方です。その当時は私も工場長として現地に赴任しており、いろいろと 勉強させていただきました。ただトップダウン的なアプローチであったため、コンサルタントが不在になると活動自体も停滞すると いう有様でした。
 かつてハードディスク事業が花形産業であった頃には、品質を維持しながら生産量を増やすことが最大のプライオリティとされていました。 しかし業界をとりまく環境の変化に伴って重視すべき項目も変ります。パソコンがタブレット端末になり、情報の記憶媒体もメモリに移行 するにつれ、ハードディスクに求められる要求も変化します。ところが数年ぶりにフィリピンの工場を訪れて感じたことは「以前の生産体 制と何も変わっていない」という印象でした。また、工場内の物流経路が異常に長く複雑化していることや、ローカルマネージャーやスー パーバイザーの改善に対する自主性の低さ、指示待ちの姿勢が感じられました。
 そうした時期、テクノ経営のVPMが海外の日系工場で成果を上げていることを知り、工場診断を受けてみることにしました。その結果、 テクノ経営からは説得力あるプレゼンテーションをいただきましたが、そこで私はトップダウンだけでは継続的な改革は進められないと いうことを強く感じました。
 チーム全体を良くするために自分たちで考えてものづくりをすすめる。日本からの設計をただ引き受けるだけではなく、引き受けたものを 自分たちで改善していく、自分たちのものづくりをもっとやりやすくしたいという意識が企業風土に根付くようにして行きたいと思いました。 それがテクノ経営のコンサルティングの導入を決めた理由です。
活動テーマや体制についてお伺いします。
後藤:今回の活動は2013年11月よりスタートしました。そして、活動のプロジェクト名は 「3C-aim-High」としました。3Cとは、CHANCE,CHANGE,CHALLENGEで、「チャンスを得たら、そこに果敢に挑戦して自分た ちあるいは会社を変えていく」という意味を持っています。これは私自身がポリシーとして度々述べてきたことでもあるのですが。 活動テーマとして同じ内容がローカル従業員によって提案されたのには驚きました。
 定量的な活動目標としては、初年度は生産性40%アップ、3年間で生産性の倍増をめざしています。活動を通じて数値目標を 追求する意識づけをしてきたいと考えています。
 今回の活動は全従業員が対象のため17チームという大編成でのスタートとなりました。直接・間接部門を含むためチーム数が 多くなってしまったのですが、BTPは24時間操業で昼夜シフト制のため2週間に一度だけ昼勤が回ってきます。そこでコンサル タントが日本とフィリピンを往復する効率を考えて、月1回の来比で2週間連続の指導をお願いしています。
現在の改善状況はいかがでしょうか。
  後藤:現在進めている活動のPhase1では自分たちの小さな改善を積み重ねることを目的として います。まだ活動に入って5か月ですが、提出される改善アイデアの件数が非常に多く、現在のアイテム数はすでに100件を超 えました。これは高く評価できることだと思います。最初は自分たちの身の回りの改善から着手し、現在では、チームのライン改 善やボトルネックを発見する段階に移りつつあります。
 改善のレベルが深くなると、より高い視点でのアプローチが必要になるので、ヨコの壁をほじくりながら、タテのクサビを打つ 方策を考えているところです。今年の3月からは改善アイデアに対するインセンティブを設定して、より現場のモチベーションを 高めていきたいと考えています。
今回新しい手法を導入されていますが、それはどのようなものでしょうか。
  後藤:困ったときに何をチョイスすれば効果的なのか。ものづくりに道具がいるように、改善活動に も最適なツールが必要です。今回の活動では、コンサルタントからのアドバイスにより「2次元成果グラフとDPR(Daily Productivity Report)」 「ワークアウト」という新しく手法を導入しました。
 「2次元成果グラフとDPR(Daily Productivity Report)」とは、改善活動の進捗状況が一目でわかる見える化の仕組 みです。一般的な改善活動における効果測定は生産性(生産量/全体延べ工数)の上昇率で表されます。その数値が何%上がった かで活動の効果を判定するわけです。今回の活動では、この生産性の指標を「生産性=総合効率(能力)×業務効率(×最大業務 遂行能力(定数))に分解しました。つまり縦軸に能力、横軸で業務効率を表示する2次元成果グラフ化したわけです。このよう にすると総合効率、業務効率と生産性の関係がグラフ上の1つの点として表され、現状が明確になるため、改善の推進が容易にな ります。また長期の履歴(1年の活動成果)も簡単に表示できるようになりました。
 そして、この2次元グラフを維持するために、現場ではDPR(=Daily Productivity Report)という表を作成して、日々の生産 数、作業時間等を毎日記入し、その場で生産性の指標の増減が分かるようにしています。その結果、その日その日の生産性が見え る化されるため、現場サイドでもその日何が起こって生産性が悪くなった(または良くなった)が一目で分かるので、日々の改善 の指針としてたいへん役立っています。
 もう一つの手法である「ワークアウト」とは、GEの元CEOであるジャック・ウェルチ氏が開発した、官僚主義を打破し組織変革を 行うための1つの手法です。その基本的な考え方は「ある仕事に1番近い人がその仕事を1番よく知っているという前提に立ち、 職能や職位に関係なく、現場の人間にアイデアを求め実行に移す」というものです。BTPではこれを工場生産改善のための一技法と 位置づけ、実施しやすいよう改良を加え、改善活動に取り入れています。
 「ワークアウト」は、第一線のメンバーが重要な問題と主体的に取り組んでいく活動です。その進め方は、テーマを熟知している グループがアイデアを考え、「タウンミーティング」という公開の場で責任者に提示することから始まります。そして、公開討論の あと、リーダーが「その場で」それぞれの提案について、イエスかノーかの意思決定を行うというものです。スピードを重視する活 動のため、期間は3か月程度の短いサイクルを目安としています。既成概念にとらわれない水平思考の習慣づけを促し、「システム シンキング」を組織内に育てることをねらいとしています。
 アイデアを生み出すこと、行動を起こす価値のあるテーマ選択するためには、迅速かつ決定的に進められるアイデアの分析力が必 要です。そのために「実行可能判断テーブル」を用いてカテゴリーごとに素早く分析を行うようにしています。
具体的な改善実施についてお話ください
 ライン作業工程の改善は生産性アップに大きく貢献しています。ライン工程の改善では平行に4 列並んでいた巻線機ラインをU字型に再編成したところ、7名で行っていた作業が4名で行えるようになりました。また、作業レベル の改善では、部品の固定作業の見直しにより作業工程を減らすことに成功しています。コイルにチューブを挿入する作業ではタクト タイムの関係で複数工程を取ってきましたが、作業改善によりタクトタイムを変えずに工程を減らすチャレンジを継続中です。
今後の活動に向けてのビジョンについてお聞かせください。
  後藤:私がBTPに赴任して驚いたのは、15年前の東京特殊電線フィリピン工場のときに雇用した 従業員がそのまま現場に残っていたことです。彼らの大半は現在、活動を進めている17チームのキーマンとして活躍してくれ ています。そういう意味で新しいメンバーとのコミュニケーションを円滑に進めることができて非常に助かっています。
 私は自分自身の信条として、「会社が人をつくるのではなく、人が会社をつくる」とずっと考えてきました。会社は一人の 力で大きくなるのではなく、多くの人の力を集めてこそ成り立つものです。一人ひとりの力は小さくとも、全体のベクトルを 結集すれば大きな力になります。
 将来的なビジョンとして考えていることは、製品開発のみを日本で行い、設計・生産はBTPで行えるようにすることです。こ れはBTPをひとつの会社として成立させるということですが、そのためにも会社としての仕組みづくりや人材育成が重要課題で あると痛感しています。その実現に向けて、今まで途絶えていたローカル従業員を日本に招聘しての研修も再開しており、いま も2人がこちらに来て機械加工の勉強をしているところです。今後は従業員のだれもが勉強できる機会を設けて、それを仕事に いかせるような体制にしていきたいと考えています。
本日はありがとうございました。