■フィリピン消費市場のポテンシャル
ASEANで第2位、1億490万人(2017年・推定)という人口。そして平均年齢23歳という若さ、それがフィリピンの強み。なんと65歳以上は人口の5%しかいない。経済的には中間層の成長により消費市場が急成長しており、フィリピン市場に進出する日本の外食産業も増えている。一方、フィリピンのインフラ整備では日本と中国で競争が続いている。マニラ発の地下鉄の建設には日本のODAが使われるほか、日本は北部の開発都市に延びる高速鉄道を、中国は南方への長距離鉄道を支援するという。ドゥテルテ大統領は南シナ海問題を棚上げする代わりに中国からの支援を取り付けた。
近年、フィリピン経済の成長を支えているのは海外からの送金である。その海外送金が国内の消費拡大にも大きく貢献をしている。70年代に年間約3万6千人だった海外労働者が、2013年には1,024万人。これはフィリピン人口の約10%に及ぶ数値に増えているからだ。
最近、働き手不足の中、日本でも介護や看護等で外国人労働者を呼び込もうとする動きが出ているが、たとえば香港のフェリーターミナル近くの広場などにフィリピン人の女性が大勢集まっているのをよく見かける。多くは香港でメイドとして働く女性だという。休日には同郷の仲間と集まって情報交換をするのだそうだ。
一時は「アジアの病人」と蔑まれ80~90年代の政治・経済的な混乱により、対外投資を確保できなかったフィリピンでは他のASEAN諸国に比べて製造業の誘致が遅れてしまった。そのため国内で十分な雇用を確保することができず、海外に就労の場を求める結果になったのである。
英語が公用語のフィリピンでは、欧米企業がコールセンターなどアウトソーシング先として使うことが多い。小学校から英語の授業があり、周辺国と比べて英語の発音が正確なこともメリットらしい。
アキノ政権を引き継いで1年、「ビルド・ビルド・ビルド」という掛け声で、ドゥテルテ政権によるインフラ開発が急ピッチで進んでいる。ODAと公共投資を財源として、2022までの6年間で首都圏交通網や国際空港整備などの計画が進められている。特にマニラ首都圏の混雑解消、周辺地域へのアクセス強化が目標とされている。
■ フィリピンの小売市場
フィリピンには生活圏に密着した「サリサリストア」と呼ばれる小さな雑貨店が60~70万店もある。 扱う商品は生活必需品や酒・タバコなどで、洗剤や調味料などは1回分単位、タバコも1本から販売されている。もともとは貧しいスラム地域の生活者でも購入できるようにしたためだ。 東南アジアで認知されている「味の素」が直販方式で1回分の袋入り商品を置いているのも有名な話である。
これに対して、都市部ではコンビニエンスストアが市民生活に定着している。 最大シェアを占めるのは台湾資本が展開するセブンイレブンで、他にもミニストップやファミリーマートなどが進出している。 フィリピンのコンビニにはテーブルスペースがあり、店内で飲食ができるのが特色。これは一日五食(三食と二回の間食)を取るスペイン植民地時代の習慣が残っているため、朝食なども勤務先の近くで取る人が多く、外食依存率が高くなっている。
フィリピンへの小売業の外資進出はフランチャイズか合弁のみ。地場企業との提携が不可欠である。フィリピンで有力なのは華僑系財閥で、不動産デベロッパーがオフィスやマンションを含めて、大型ショッピングモールの開発を進めている。ショッピングモールには多くの専門店や外食チェーンが入店し、日系の外食企業では吉野家や和民など、小売業ではユニクロ1号店がメトロ・マニラの大型ショッピングモールに進出している。
家電品でいえば、その普及率は白物家電を中心に、2011年の段階では冷蔵庫・掃除機が約4割、洗濯機・電子レンジは約3割程度であるが、今後の成長期待分野ではある。
またフィリピン国内における2016年の自動車販売台数は36万台、前年比24.6%という高い伸び率で、まさにフィリピンにおけるモータリゼーションの到来が予感される。
台湾やベトナムなどでバイクが疾走する風景を見慣れた眼には、この国のバイクの少なさは逆にやや異常に写る。徒歩と乗り合いバスが庶民の交通手段となっているのだ。ただ街中では乗り合いバスや、サイドカー付きのリンタクが道路のどこにでも停車するため、結果的に車線割り込みや渋滞が助長されてしまう。また車検制度や自動車保険が未整備なためトラブルも少なくないという。
■個人消費を支える中間所得層
成長するフィリピン市場、その消費の牽引役は急増する中間所得層である。富裕層と中間所得層の過半数がメトロ・マニラ首都圏に住んでおり、大都市と地方の経済格差は年々拡大している。フィリピンの貯蓄比率は極めて低く、給料が出るとすぐに消費してしまう傾向が見られる。特に給与が支給された週末のショッピングモールには数多くの買い物客や食事をする家族などが詰め掛け混雑を極める。
一方、フィリピンの失業率は約6%と高く、大卒者でも仕事にありつくのは容易ではない。そのため海外で働く出稼ぎ労働者が多く、その数は総人口の約一割に達しているのである。職業は看護士、エンジニア、船員、その他労働者など様々で、マニラの国際空港にはOFW( Overseas Filipino Workers)と書かれた海外労働者専用の入国審査ブースがあるほど。フィリピン経済の課題は、雇用の受け皿となる製造業の整備・育成により、GDP成長と逆行する失業率の高さを解消すること。 そのためには外国企業からの投資を促進し、輸出による外貨獲得を強化することが重要である。フィリピン社会の発展性もそこから生まれてくると思われる。
(株式会社テクノ経営総合研究所 現地レポート)
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